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千葉地方裁判所 昭和33年(行)1号 判決

原告 栗原義重

被告 小櫃村選挙管理委員会

主文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、「(一)被告小櫃村選挙管理委員会(以下被告委員会という)が昭和三十三年一月二十一日にした原告の小櫃村議会解散請求者署名簿の署名に関する異議申立却下決定はこれを取り消す。(二)小沢武夫、大野豊および小沢周司が小櫃村議会解散請求代表者となり昭和三十二年十二月十七日被告委員会に提出した右議会解散請求者署名簿中別紙目録記載の署名は全部無効とする。(三)被告委員会は原告に対し前項の署名につき地方自治法第七十六条第四項において準用する同法第七十四条の二第一項の規定による証明を修正せよ。(四)訴訟費用は被告委員会の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、

一  原告は小櫃村の住民であり、かつ選挙権者であり、後記小櫃村議会解散請求者署名簿の効力につき直接に利害関係を有する「関係人」である。

二  小沢武夫、大野豊および小沢周司は小櫃村議会解散請求の代表者となり村議会解散請求書を被告委員会に提出し、昭和三十二年十一月十六日請求代表者証明書の交付を受け、同年十二月十七日全署名簿を被告委員会に提出したが、被告委員会は右署名簿の署名中別紙目録記載の署名をいずれも有効と決定した。

三  しかしながら右署名簿の署名は左の理由により無効である。

(一)  前記代表者等が被告委員会に提出した議会解散請求書は請求の要旨の記載が千字を超えており、地方自治法施行令第百条において準用する同令第九十一条第一項の規定に違反する。

(二)  被告委員会は右議会解散請求代表者証明書交付申請受理に際し地方自治法施行令第百条において準用する同令第九十一条第二項の規定による告示をしていない。

(三)  署名収集にあたつては議会解散請求書又はその写を附さない署名簿が用いられたが、地方自治法施行令第百条において準用する同令第九十二条第一項の規定に違反する。

(四)  片倉愛子、片倉とよ、小沢あい、小沢きくゑ、渡辺ゑつ子、渡辺なか、斎藤うら、鈴木千代、斎藤よ志、花沢きみ、花沢いく、花沢ちか、花沢きん、榎本豊、榎本かつみ、花沢きく、山口昌、山口かつ、榎本茂、榎本きく、榎本いゑ、渡辺幾栄、花沢平治等に署名を求めたのは前記議会解散請求代表者でもなければ、その委任を受けたものでもないので、これらの署名は無効である。

(五)  別紙目録記載の者等の署名は本人みずからの署名押印でなく、仮に自署したものがあつても詐欺にもとづくものであるから無効である。

(六)  別紙目録記載の者等の署名は地方自治法施行令第百条において準用する同令第九十一条第二項の規定による告示前に署名したものであるから全部無効である。

(七)  前記代表者等が被告委員会に対してした署名簿の提出は前項の告示前にされたものであるから違法である。

四  被告委員会は右提出された署名簿を昭和三十三年一月六日から同月十二日まで縦覧に供したので、原告は被告委員会に対し右署名簿中別紙目録記載の者の署名に関し異議申立をしたところ、被告委員会は同年一月二十四日原告が地方自治法第七十六条第四項において準用する同法第七十四条の二第四項に規定する関係人でないとの理由により異議申立を却下する旨決定し、原告は同月二十八日右通知書の送達を受けた。

と述べ、被告の主張に対し「原告は小櫃村議会の議員選挙権を有するものであるから、右村議会に対する解散賛否の投票につき異議申立をなし得ることは地方自治法第八十五条公職選挙法第二百二条により明らかである。しかして本件のように署名に関し不適法の事実が存在し署名が無効である場合には、原告はこのことを右の異議申立理由として主張し得なければならない筈であり、そのことから考えれば原告のように選挙権を有するものも右議会解散請求者署名簿の効力について異議申立をなし得る関係人であるといわなければならない。」と述べた。

被告代理人は「原告の訴を却下する」との判決そうでなければ「原告の請求を棄却する」との判決を求めその理由として「議会解散請求書署名簿の署名に関する異議の申立をすることのできる者は地方自治法第七十六条第四項において準用される同法第七十四条の二第四項に定められた関係人でなければならない。ここに関係人というのは、当該署名の効力の決定に関し直接利害関係のある者、すなわち請求代表者、署名収集受任者、署名者本人、他人によつて自己の名を偽筆された者本人、議会の議員のいずれかであることを要し、以上に列挙する者以外の者を包含しない。原告は関係人でないから被告委員会が原告の異議申立を却下したのは当然である。したがつて原告の本訴訟は不適法として却下されるべきであるか、そうでなければ請求を棄却されるべきである。」と述べた。

理由

本訴は小櫃村議会解散請求者署名簿の署名の効力を争うものであることが明らかである。原告は小櫃村の住民であり、かつ選挙権者であるから地方自治法第七十六条第四項において準用する同法第七十四条の二第四項の「関係人」に該当し、本訴の原告たる適格を有すると主張する。元来普通地方公共団体の議会の解散請求手続において解散請求代表者のする署名の収集は、右解散の賛否を一般住民(選挙人)に問う住民投票(地方自治法第七十六条)のための予備段階であるから、右署名の効力は速やかにこれを確定する必要があり、このことは同法第七十六条によつて準用される同法第七十四条の二第十一項の規定の趣旨からも窺えるところである。したがつて同法第七十四条の二第四項は、署名の効力に関する選挙管理委員会の決定に対して異議を申し立て得る者の範囲を広く一般選挙人に認めず、そのうちの「関係人」に限定し、これに該当しない一般選挙人又は一般住民からのて濫訴を防止して、署名の効力を速やかに確定させようとしたものと解すべきである。異議の申立は「署名簿の署名に関し」なされるものであるから、署名者、署名者以外で自己の名を偽筆されているその本人が当該署名に関し異議の申立をなし得ることは明らかであるが、選挙権を有する者であつても署名もせず、かつ他人に自己の名を偽筆されてもいないものは異議の申立をすることができず、ただ請求代表者、その委任を受けた者、解散請求の対象となつた議会の議員は署名の効力につき直接の利害関係を有する者であるから他人の署名に関しても異議の申立をなし得るに止まる。もとより解散請求にもとづく解散の賛否投票においては地方自治法第八十五条において準用される公職選挙法第二百二条の規定により投票の効力に関し選挙人から異議の申立をすることができるけれども、このことは、おのずから別個の問題である、というべきである。よつて別紙目録記載の者等の署名の効力に関する本訴において原告は正当な当事者たる適格を有しないものといわなければならない

以上の理由により原告の訴は不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 内田初太郎 田中恒朗 遠藤誠)

(別紙目録省略)

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